引退犬の”その後”を隠すブリーダー

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こんにちは、ラーテル犬舎の西山です。

「引退した子はどうなるんですか?」

そんな質問をいただくことがあります。

そこで今回は引退した子についてのおはなしをさせていただきます!

下記の記事は里親譲渡に関する私たちの思いの記事となってます!
良ければお読みください!

あくまで一個人の考えですので、その前提で読んでいただけると嬉しいです。


目次

はじめに:引退犬を里親に出すこと

私自身、ラーテル犬舎では引退犬に里親を探しています。
前回の記事「なぜ僕は繁殖引退犬を里親に出すのか」でも詳しく書きました。

終生飼育の理想と現実

もちろん、「引退した犬は全頭、犬舎で終生飼育するべきだ」という意見もあると思います。

理想としてはその通りです。

ただ、現実問題として犬舎にはキャパシティの限界があります。

うちでも、今のスタッフの人数、施設の広さ、一頭一頭に手をかけてあげられる頭数を常に見定めています。

全頭の終生飼育は現実的に難しい
——これは正直にお伝えしなければなりません。

だからこそ、引退した子をどうするのかという問いに対して、
ブリーダーがどう向き合っているかが問われるかと思います。


10万頭の引退犬はどこへ消えたのか

数値規制がもたらした「引退犬ラッシュ」

2021年の動物愛護法改正で「数値規制」が導入されました。

  • スタッフ1人あたり繁殖犬15頭まで

  • メス犬の交配は原則6歳まで

  • 生涯出産回数は6回まで

  • 犬が自由に動けるケージサイズの確保

これは劣悪な環境で犬を飼育する「パピーミル(子犬工場)」を排除するために必要な改正でした。しかし、この規制により全国で推計10万〜13万頭もの引退犬が発生したとされています。

行政の追跡システムの穴

ここに構造的な問題があります。

環境省は、引退犬を頭数制限のカウントから除外する決定を下しました。「厳格にカウントすると、行き場を失った犬が不適切に処分されるかもしれない」という懸念からです。

その結果、行政の報告上、引退犬は「販売または引渡しをした動物」として処理されるだけ。

その後どこでどう暮らしているのか、追跡する仕組みが存在しません。

つまり、帳簿上「引渡し」として処理すれば、
実際にはどこにいるか分からなくても、制度上は問題にならないのです。


「保護犬ロンダリング」という構造

保護の名を借りた在庫処分

一部のブリーダーは、引退犬を「保護団体」に引き渡しています。

表面的には「犬を大切にしている」「新しい家族を探している」ように見えます。

しかし、実態はこうです。

一部の保護団体が、ブリーダーから無料(またはわずかな「協力金」付き)で引退犬を引き取り、

「悲劇の保護犬」として10万円以上の高額な譲渡費用で一般家庭に譲渡する——実質的な販売が行われています。

仕入れ値はほぼゼロ、譲渡金や寄付金による収入だけが高い。
冷静に見ると、かなり収益効率の高いビジネスモデルです。

ブリーダーと保護団体の「共生関係」

この構造には双方にとっての「メリット」が存在します。

ブリーダー側: 老犬の終生飼養コストを回避でき、
里親探しの手間も省け、「保護団体に託した」という免罪符が得られる。

保護団体側: 原価がほぼゼロの「商品」を安定確保でき、
「保護」というブランドで高額譲渡が可能になり、
さらにクラウドファンディング等で寄付も集められる。

私の知り合いのブリーダーの間でも、「あそこなら犬を引き取ってくれるよ」という話を聞くことがあります。

中には「見栄えの良い犬、若くて健康な犬しか引き取らない」という団体もあるそうです。

これは動物愛護ではなく、命の責任を外部化してビジネスにする構造です。

善意の消費者が支える矛盾

最も根深い問題は、この構造が善意の消費者によって成り立っていることです。

「かわいそうな犬を救いたい」という純粋な想いで保護犬を迎え、
高額な譲渡費用を支払う。

その資金が次の犬をブリーダーから引き取る「仕入れ資金」として還流される。
結果として、本来変わるべき産業構造を維持・助長するという皮肉な循環が生まれているのです。


SNSで見る「保護」の演出

情緒に訴えるマーケティング

保護ビジネスを行う団体は、SNSやクラウドファンディングを巧みに使います。

「廃業したブリーダーからレスキューした」
「劣悪な環境から救い出した」
「この子は繁殖犬として酷使されていました」
——こうした情緒的なストーリーで寄付や支援を集めます。

しかし実態は、ブリーダーの「在庫調整」を代行しているに
過ぎないケースが少なくありません。

「保護犬」の定義が曖昧になっている

本来、保護犬とは保健所や動物愛護センターから引き取られた犬、
飼育放棄や虐待から救出された犬、
多頭飼育崩壊現場から保護された犬を指すはずです。

ところが今、ブリーダーが計画的に繁殖させ、
役目を終えた犬が「保護犬」として流通しています。

正確に言えば、それは「保護犬」ではなく「譲渡犬」です。

この言葉の混同が、問題の本質を見えにくくしています。

本当に保護が必要な犬たちのこと

ここで考えてほしいのは、本当に保護が必要な犬たちのことです。

10歳、12歳の大型犬で認知症が始まっている子。
歩行が困難で毎日の投薬が欠かせない子。
こうした犬たちこそ、行政のセンターで行き場を失いがちな存在であり、
保護活動が本来手を差し伸べるべき対象です。

一方で、まだ4〜5歳で健康体の元繁殖犬を引き取り、
「保護犬を飼っています」というのは、少し違う話ではないでしょうか。

保護団体のリソースは有限です。
そのリソースが、
本来ブリーダー自身が責任を取るべき犬に使われている現状は、
真に保護が必要な犬たちの居場所を圧迫しているとも言えます。

さらに深刻な「再搾取」のケース

もっと悪質な事例も報告されています。
「保護」の名目で引き取った犬を別名義で再び交配させ、
ミックス犬として譲渡(販売)する
——命の尊厳を踏みにじる行為が、
「保護」という美名のもとで起きているのです。


実際に起きた事件から学ぶ

松本市の450頭虐待事件

2020年、長野県松本市のブリーダーが約450頭の繁殖犬を劣悪な環境で飼育していた事件が発覚しました。

繁殖効率を優先するあまり、
無麻酔で帝王切開を行っていたとされています。

保護された犬たちはボロボロの状態で愛護団体に託されました。

限界まで使い潰した後に外部に「レスキュー」させる
——これは責任転嫁の最たる例です。

81歳ブリーダーの悲劇

数値規制導入後、適正な飼育が難しくなった81歳のブリーダーが、
小型犬3匹を窒息死させるという事件も起きました。

「規制を守るために頭数を減らさなければならず、
譲渡先も見つからなかった」と弁明したといいます。

極端な例ではありますが、引退犬の行き場がない現実と、
覚悟を持たずに繁殖を続ける問題、
そしてセーフティネットが「保護ビジネス」という歪んだ形でしか機能していない構造を浮き彫りにしています。


なぜ私は自分で里親を探すのか

その子を一番知っているのは、一緒に暮らしてきたブリーダー

ラーテル犬舎では、引退犬を里親に出す際、
保護団体を経由することはしません。

理由はシンプルです。
何年も一緒に暮らしてきたブリーダー本人が、
その子のことを一番よく知っているからです。

何が好きで何が苦手か。どんな環境でリラックスできるか。

他の犬との相性はどうか
——成犬の里親選びで最も大切な
「その子の性格に合った家庭を見つけること」は、
毎日接してきた人間にしかできない仕事です。

保護団体に引き渡すということは、
この大切な「家族探し」を他者に委ねるということです。

正直に言えば、成犬の里親探しは子犬の家族探しよりも手間がかかります。子犬は見た目のかわいさだけでも引き合いがありますが、
成犬はその子の性格と家庭の相性を一つひとつ丁寧に見極める必要がある。時間もエネルギーも使います。

だからこそ、それを放棄するブリーダーの姿勢に疑問を感じるのです。

命への責任を最後まで持つ

私は、自分が繁殖に携わった子の人生には最後まで責任を持ちたいと考えています。

  • 引退犬の里親募集は、私自身が直接行います

  • ご家庭との相性を慎重に見極めます

  • 譲渡後も定期的に様子を伺います

  • 万が一飼えなくなった場合は、必ず私が引き取ります

犬舎見学では、現役の親犬だけでなく、
引退して穏やかに過ごしている先輩犬たちにも会っていただけます。

「保護犬」という位置づけへの違和感

ブリーダーが計画的に繁殖させ、役目を終えた犬が保護団体を経由することで「保護犬」になり、
高額な譲渡金が発生する
——この構図には、どうしても違和感があります。

保護活動にコストがかかることは理解していますし、
それ自体を否定するわけではありません。

ただ、ブリーダーのもとで生まれた子が「保護犬」として流通していく構造には、
何か本質的におかしいものがあると感じています。


ブリーダーの「製造物責任」を考える

他の産業動物との比較は、この問題を考える上で示唆的です。

乳牛や採卵鶏の事業者は、生産性が落ちた個体の処遇について自らの責任で対応します。それを「保護動物」として消費者に高額で譲渡するような仕組みは存在しません。

犬はどうでしょうか。
ブリーダーは犬を「家族の一員」として販売しています。
であるならば、その命の源である繁殖犬に対しても、
事業者としての責任
——いわば「製造物責任」に近い倫理観が求められるはずです。


「蛇口を閉める」という発想

保護犬を減らしたいなら、蛇口を閉めなければなりません。

今の「保護犬」と呼ばれる犬たちを見ていて感じるのは、
明らかにブリーダーからの引退犬が相当な割合を占めているということです。
多頭飼育崩壊の現場からレスキューされた犬や、
劣悪な環境から救出された犬よりも、はるかに多い。

つまり、保護犬を減らすために最も効果的なのは、
ブリーダー自身が責任を持って引退犬の里親を探すことです。

行政の保健所は、
動物取扱業を営む事業者からの引き取りを断れる制度になっています。
では、なぜ保護団体はそうしないのか。
そこに、この問題の構造的な歪みがあると感じています。


子犬を迎える前に、必ず聞いてほしい質問

これから子犬を迎えようとしている方に、一つだけお願いがあります。

「引退した親犬たちは、今どうしていますか?」

ブリーダー見学の際、必ずこの質問をしてください。

「保護団体に任せている」という答えは、
その子の”その後”の責任を外部化しているということです。
「分からない」という答えは、
引退犬の所在を把握していないということです。

この質問一つで、そのブリーダーの考え方に触れることができます。

ちなみに、私は自分の犬舎が一番良いとは全く思っていません。

まだまだ改善の余地はたくさんあります。
ただ、もしこの記事を読んでいる方が他の犬舎を訪ねる際にも、
この質問はぜひ聞いてみてください。
犬種を問わず、ブリーダーの本質が見える問いだと思います。


「保護犬」を迎える場合の見極め方

保護犬を迎えること自体は素晴らしい選択です。
ただし、「本当の保護活動」と「保護ビジネス」を
見分ける目は持っていてほしいのです。

信頼できる保護活動の特徴

  • 犬の入手経路が明確(保健所、警察、一般飼い主からの保護など)

  • 譲渡費用が医療費・飼育費の実費程度(概ね3〜5万円程度)

  • 収支報告を定期的に公開している

  • 譲渡後も継続的なサポート体制がある

注意が必要な団体の特徴

  • 特定のブリーダーから定期的に犬を引き取っている

  • 譲渡費用が10万円以上と高額

  • 「劣悪な環境から救出」など情緒的な訴えが中心で、具体的な情報が少ない

  • 常に新しい犬が登場し、回転率が高い

迎える前にぜひ確認してほしいのは、
「この子はどこから来ましたか?」
「譲渡費用の内訳を教えてください」
「収支報告は公開されていますか?」という3つの質問です。


あなたの選択が業界を変える

子犬を迎える場合

「引退した親犬は今どうしていますか?」
——この質問をして、納得のいく答えが返ってこないブリーダーからは、
子犬を迎えないでください。
あなたのその選択が、保護ビジネスの構造を崩すことにつながります。

保護犬を迎える場合

「かわいそうな犬を救いたい」という善意が、
悪質なブリーダーの延命装置にならないよう、
団体の透明性を確認してください。

安さだけで選ばないで

「安い子犬」の裏側には、
親犬の余生がコストカットとして切り捨てられている現実があります。
適切な価格設定を行い、引退犬まで責任を持つブリーダーを選ぶこと
——それが業界全体を変える力になります。


まとめ:命の責任を外部に押し付けない

「繁殖引退犬」の問題は、ブリーダーのモラルだけの話ではありません。
ブリーダーと保護団体の共生関係、
そしてそれを支える消費者の選択
——これら全体が作り出している構造的な問題です。

ブリーダーは 保護団体への安易な引き渡しをやめ、
終生飼養や里親探しのコストを経営に織り込むべきです。

保護団体は 本来の保護活動
——本当に行き場のない犬たちを救う活動
に立ち返り、情報開示と透明性を徹底すべきです。

消費者は 引退犬の”その後”を必ず確認し、
保護団体経由の犬の出所にも関心を持つべきです。

私たちブリーダーは、子犬を売る商売ではありません。
命を繋ぐ仕事です。

繁殖犬は、私たちに子犬という”命のバトン”を繋いでくれる、
かけがえのない存在です。
その感謝を、最期まで責任を持つことで表したい
——それが私の信念です。

子犬の愛らしさに目を奪われる前に、
その親犬たちの”その後”を問うてください。
その問いの積み重ねが、
日本のペット業界から「保護犬ロンダリング」という闇を払い、
真の動物福祉を実現する道だと信じています


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