「犬を飼いたい」と思った時、あなたはどこから探し始めますか?
ペットショップ、ブリーダー、保護犬
——それぞれにメリットとデメリットがあります。
知らずに選んでしまうと、
「こんなはずじゃなかった」という後悔につながることも。
私は神奈川県寒川町でイタリアングレーハウンドと日本スピッツ専門の犬舎「ラーテル犬舎」を運営しているブリーダーです。
この記事では、ブリーダーの立場から、
あえてブリーダーのデメリットも含めて、
3つの入手経路を正直に比較します。
そして最後に、ブリーダーの口から言うのは変かもしれませんが、本音もお話しします。
2026年、日本の犬飼育市場で起きていること
まず前提として知っておいてほしいことがあります。
一般社団法人ペットフード協会のデータによれば、
犬の飼育頭数は約680万頭前後で「下げ止まり」の兆しを見せています。
数年間続いた減少トレンドが止まり、1世帯あたりの多頭飼育が増加している状況です。
同時に、2019年の改正動物愛護管理法の影響は大きく、
「8週齢規制(56日規制)」や飼育環境の数値規制により、
ペットショップもブリーダーも、以前より厳しい基準で運営されています。対面説明・現物確認が義務化され、オンラインだけでの取引もできなくなりました。
つまり、「どこから迎えるか」という選択は、単なる買い物ではなく、
その犬の一生
——15年から20年——
に関わる重要な意思決定なのです。
ペットショップ:手軽さの裏にある構造
メリット:圧倒的なワンストップの利便性
ペットショップの最大の強みは、
今日思い立ったら今日迎えられるという手軽さです。
事前予約なしで立ち寄れて、複数の犬種を一度に比較でき、
ケージもフードもリードもその場で揃う。
分割払いやクレジットカード決済にも対応しているところがほとんどで、
ペット保険の手続きまでワンストップで完結します。
この利便性は、他の経路では実現できません。
デメリット:見えない流通経路とそのリスク
一方で、ペットショップには構造的な課題があります。
供給源が見えにくい。
多くのペットショップは、オークション(生体市場)や
大規模繁殖業者から子犬を仕入れています。
繁殖場→オークション→店舗という長距離輸送を経る過程で、
幼い子犬は多大なストレスを受けます。
輸送ストレスは免疫力を低下させ、感染症リスクを高める要因です。
価格に中間マージンが乗っている。
販売価格にはオークションの落札価格に加え、
店舗の賃料、人件費、広告宣伝費が含まれます。
結果として、最終価格は仕入れ値の2〜3倍に達するのが一般的です。
社会化の機会が限られる。
犬の精神発達に不可欠な「社会化期」(生後3〜12週齢)に、
多くの子犬はショーケース内で孤立して過ごしています。
母犬や兄弟から早期に引き離され、
犬同士のルールや抑制を学ぶ機会が失われます。これが将来の問題行動
——無駄吠え、噛み癖、過度な臆病さ——
の土壌になりやすいのです。
親犬の情報が得られない。
親犬の健康状態や遺伝的疾患の有無を確認する手段が限られるため、
将来の健康リスクを予測する材料が乏しい。
これは私も2犬種だけで勉強が追いつかないと感じているくらいなので、
20犬種以上を扱う店舗のスタッフに犬種ごとの深い知識を求めるのは、
正直なところ酷だと思います。
ブリーダー:専門性の強みと、見極めの難しさ
メリット:透明性と専門家による長期サポート
ブリーダーから迎える最大の利点は、
その犬がどこから来たのか、すべてが見えるということです。
親犬を自分の目で確認できる。
子犬だけでなく母犬や育った環境を直接見られるため、
将来の体格、性格、遺伝的疾患のリスクを高い精度で予測できます。
「お父さんはこんな顔で、お母さんはこんな性格で」と、
その子の遺伝的なルーツがわかるのは、ブリーダーならではです。
犬種の専門家が一生付き合ってくれる。
ブリーダーは単なる「売り手」ではなく、
その犬種の専門家です。
譲渡後もしつけや健康管理の相談に継続的に応じる傾向があります。
ラーテル犬舎では、LINEでの気軽な相談、
オフ会やドッグランイベントを通じて、
「お客様以上、家族未満」の関係性を大切にしています。
お迎えした家族同士がつながるコミュニティがあることで、
初めて犬を飼う方も孤独に悩むことがないように努めています。
親戚犬に会えたり、兄弟犬のオーナーさん同士でつながれたりするのも、
犬舎ならではの楽しみです。
家庭環境で育つから、メンタルが安定している。
ブリーダーは子犬を「施設」ではなく「家庭」で育てます。
生活音、人の動き、他の犬との関わりの中で育つことで、
ご家庭に迎えた後も精神面で安定した子に育つケースが多いのです。
中間マージンがないぶん、適正価格で迎えられる。
ペットショップと同等以上のクオリティの個体を、
比較的適正な価格で迎えられるケースが多いです。
デメリット:ブリーダーだからこその制約
ここからが重要です。ブリーダーの立場から、
正直にデメリットもお伝えします。
ブリーダーを見極めるのが難しい。
残念ながら、「ブリーダー」を名乗る全ての人が良心的とは限りません。
不衛生な環境で過密飼育を行い、
無理な繁殖を繰り返す業者も存在します。
消費者自身が見極める眼を持つ必要がある
——これはペットショップにはないハードルです。
見極めのポイントとしては、犬舎の見学を快く受け入れてくれるか、
母犬や他の犬を直接見せてくれるか、
遺伝子検査の結果を開示しているか、
オークションへの卸売をしていないか、
引退犬の終生飼養や里親制度があるか
——こうした点を確認してみてください。
タイミングが合わないことがある。
母犬の体調を最優先に繁殖頻度を制限しているため、
希望のタイミングで子犬がいないことが多く、
数ヶ月から1年以上の待機が必要になることもあります。
審査がある場合がある
「売れれば誰でもいい」とは考えていません。
飼育環境、家族構成、ライフスタイルを丁寧にヒアリングし、
そのご家庭に無理なく犬との生活が築けるかを
一緒に考えるプロセスがあります。
これは飼育放棄を防ぐための防波堤ですが、
「面倒だな」と感じる方もいるでしょう。
地理的な制約。
希望する犬種の専門ブリーダーが遠方にいる場合、
現地まで足を運ぶ必要があります。
対面説明・現物確認が法律で義務化されているため、
オンラインだけでは完結しません。
犬舎ごとに当たり外れがある。
ブリーダーは個人が基本なので、
対応や方針はその犬舎ごとに違います。
実際に行ってみないとわからない部分があるのは事実です。
ただ、「合わないな」と感じたらそれも一つの判断基準になるので、
まず気軽に見に来てもらえたらと思っています。
保護犬:命を救う選択と、その現実
メリット:倫理的な意義と実用面の良さ
保護犬を迎える最大の意義は、一頭の命を直接救えるということです。
環境省の統計によると、令和4年度の全国の犬の引き取り数は22,392頭、
そのうち2,434頭が殺処分されています。
神奈川県動物愛護センターのように10年以上犬の殺処分ゼロを継続している自治体もあり、
「処分施設」から「生かすための施設」への転換は着実に進んでいます。
多くが成犬であるため、
性格や体格がすでに定まっているのも実用的なメリットです。
子犬期のような予測不能な変化が少なく、
自分のライフスタイルに合った子を選びやすい。
費用面でも、譲渡費用は医療費実費やマイクロチップ登録料、
避妊去勢費用などで3万〜8万円程度。生体価格としては最も抑えられます。
デメリット:審査の厳しさとバックグラウンドの不確実性
審査が非常に厳しい。
経済力の証明、ペット可物件の確認、家族全員の合意、年齢制限(原則65歳以下)、単身者や高齢者への制限
——再度の飼育放棄を防ぐための措置ですが、
「善意で迎えたいのに」と壁を感じる方もいるかもしれません。
過去のトラウマがある子もいる。
野犬出身や多頭飼育崩壊からの救出個体の場合、
極端に人を恐れたり、特定の音に過敏に反応したりすることがあります。
信頼関係の構築に時間と専門知識が必要になるケースもあります。
ただ、大抵の場合はトレーニングで改善の余地がありますし、
元から悪い犬というのはいません。
「保護犬ビジネス」のリスク。
一部の団体では、
保護活動を装って不透明な高額寄付を要求するケースもあります。
保護犬を迎える場合も、団体選びには注意が必要です。
詳しくは下記の記事をご覧ください。
それぞれの選択肢がフィットする人
ペットショップが向いている人:
多様な犬種を一度に比較したい。
分割払いやクレジット決済を利用したい。
社会化不足のリスクを自分でトレーニングして補える覚悟がある。
ブリーダーが向いている人:
特定の犬種を希望し、その犬種の専門家のサポートを受けたい。
親犬を自分の目で確認したい。
数ヶ月〜1年の待機期間を許容できる。
保護犬が向いている人:
成犬を迎えることに抵抗がない。
厳しい審査をクリアできる経済力と居住環境がある。
過去のトラウマや健康面の不安を受け入れられる精神的余裕と経験がある。
ブリーダーの本音:「まず保護犬から考えてみる」
ブリーダーがこんなことを言うのは矛盾しているように
聞こえるかもしれません。でも、これが本音です。
「どんな犬種でもいいから犬を迎えたい」
——そう思っている方は、
まず保護犬を検討してみてください。
神奈川であれば平塚の動物愛護センターに常時犬たちがいます。
私たちもちょこちょこ訪れていますが、
雑種と呼ばれるような子たちが家族を待っています。
自分でトレーニングを勉強して、
犬というものを学びながら迎えることができないか
——まずはそこから考えてみてほしいのです。
それでも
「この犬種に惹かれている」
「この犬種と暮らしたい」という明確な思いがあるなら、
ブリーダーから探していただくのがいいと思います。
犬種を指定している時点で、
本当の保護犬の中から見つけるのはかなり難しいと思います。
山に純血種が捨てられる方が稀ですよね。
「即決」だけはやめてほしい
最後に一つだけ、強くお伝えしたいことがあります。
その場で決めないでください。
保護犬でも、ペットショップでも、ブリーダーでも
——犬はだいたい可愛いです。
私だって大型犬を見れば「いいなあ」と思いますし、
ペットショップに行けば可愛いな~って見とれます。
毎日、大勢の犬と過ごしている私ですらそう思います。
犬を飼ってない人が即決したくなる気持ちは凄く理解できます。
でも、その一時的な感情で15年の命を引き受けるのは、
あまりにも大きな決断です。
現実的に飼えるのか。
この犬種とあと何年も一緒にいられるのか。
この子の良きパートナーになれるのか。
一旦「可愛い」という気持ちは置いて、
冷静に考えてみてください。
検討に検討を重ねて、それでも「迎えたい」と思えたなら
——きっとその子との生活は笑顔であふれるものになります。
犬舎は「犬を売る場所」ではなく「犬探しの相談所」
ラーテル犬舎は、犬を売るための場所ではなく、
犬探しのお手伝いができる場所でありたいと思っています。
子犬がいなくても見学は歓迎です。
成犬たちと遊びに来るだけでも構いません。
イタグレってどんな犬なのか、日本スピッツってどんな性格なのか、
自分のライフスタイルに合うのか
——そうした相談をしに来る場として使ってもらえたら嬉しいです。
見に来て「合わないな」と思ったら、それも大事な判断基準です。
一つの犬種を除外できれば、他の選択肢を探す時間が生まれます。
それだけで、悲しい結果になるリスクは減ります。
どの入口を選んだとしても、
大切なのは「どこから迎えるか」ではなく
「その犬との一生をどう過ごすか」。
あなたが犬を迎えることを真剣に考えているなら、
この記事がその判断の一助になれば幸いです。