※※画像はイメージ図として作成したイラストです※※
ブルー(青みがかったグレー)やフォーン(薄い茶色、イザベラとも呼ばれます)の美しい毛色を持つイタリアングレーハウンド。
その独特の色合いに惹かれて、この犬種をお迎えされた方も多いと思います。
今回は、こうした淡い毛色のイタグレに関係のある皮膚の病気、
カラーダイリューションアロペシア(CDA) についてお話しします。
長い名前ですが、簡単に言えば「淡い色の毛の部分だけ薄くなっていく病気」です。
少し難しい話も出てきますが、この病気のことを正しく知っておくと、
もし愛犬に症状が出ても慌てずに対処できますし、
必要以上に心配しなくて済むと思います。
どんな病気?
カラーダイリューションアロペシア(以下、CDA)は、
ブルーやフォーンといった「薄い色」の毛の部分だけに起こる脱毛症です。
この病気の一番の特徴は、薄い色の毛だけが抜けるということ。
もし愛犬が白とブルーの2色だったら、
白い部分の毛は元気なまま残り、ブルーの部分だけが薄くなっていきます。
昔は「ブルードーベルマン症候群」とも呼ばれていました。
ドーベルマンのブルーの子にとても多かったからです。
でも今はイタグレを含むいろいろな犬種で見つかっていて、
CDAという名前が一般的になっています。
なぜ「色が薄い」と「毛が抜ける」の?
ここがこの病気の不思議なところですよね。
色と脱毛がどう関係するのか、できるだけわかりやすく説明してみます。
毛の色はどうやって決まる?
毛の色のもとになるのは「メラニン色素」という物質です。
皮膚の中にある専門の細胞がメラニンを作り、
それを毛を作る細胞に渡すことで、毛に色がつきます。
このメラニンを細胞の中で運ぶ「運び屋」のような役割をするタンパク質があります。
この運び屋がちゃんと働くと、
メラニンは毛の中に細かく均一にばらまかれて、黒々とした濃い色になります。
薄い色が生まれるしくみ
ブルーやフォーンの犬は、この「運び屋」の働きが生まれつき弱いのです。そのため、メラニンがうまく運ばれず、
毛の中で大きな塊になって偏ってしまいます。
細かく散らばったメラニンは光を吸収して濃い色に見えますが、塊になって密度が下がると光の見え方が変わり、
私たちの目には「薄くなった」ように映ります。
これがブルーやフォーンという美しい色が生まれる理由です。
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そして毛が弱くなる
問題は、この「メラニンの塊」が毛の構造を弱くしてしまうことです。
毛は細い繊維が束になってできていますが、その中に不揃いな塊が入り込むと、毛の強度が落ちてしまいます。
普通のブラッシングや、服とこすれるくらいの刺激でも、毛が途中で折れたり切れたりしやすくなります。
CDAで見られる脱毛は、毛根から「スポッと抜ける」というより、
毛が「ポキッと折れる」「ボロボロになる」というイメージが近いです。
イタグレはCDAになりやすい?
犬種によって発症率がかなり違う
ここでまだ謎の多い事実があります。
ブルーのドーベルマンでは、なんと50〜80%以上の子がCDAになると言われています。
一方、ワイマラナーは犬種全体がブルー系の薄い色なのに、
CDAになる子はほとんどいません。
イタグレはこの両者の中間くらいです。アメリカの調査では、
薄い色のイタグレのうちCDAになるのは7%程度と推定されています。
ドーベルマンよりはずっと少ないですが、
ワイマラナーよりは多いという感じです。
なぜこんな違いがあるの?
正直に言うと、この理由はまだわかっていません。
「薄い色の遺伝子」を持っていることはCDAになる条件の一つですが、
それだけでは決まらないようです。
他にも何か別の遺伝子が関係していて、発症するかどうかを左右しているのではないか、と考えられています。
でも、その遺伝子が具体的に何なのかは、
2025年の今もまだ特定されていません。
つまり、同じブルーのイタグレでも、生涯きれいな毛並みを保つ子もいれば、若いうちから毛が薄くなる子もいる。
その運命を分けるものが何なのかは、科学的にはまだわかっていないのです。
どんな症状が出るの?
いつ頃から始まる?
多くの場合、生後6ヶ月から3歳くらいの間に最初の変化が現れます。
生まれた時は普通の毛並みで、成長するにつれて変わってきます。
最初に気づきやすいサイン
毛のツヤがなくなるのが最初のサインになることが多いです。
子犬の頃のピカピカした毛が、なんだかパサパサ、カサカサした感じに変わってきます。
次に、毛が短く折れるようになります。
特に背中など、よくこすれる部分で毛が途中で切れていて、
触るとザラザラした感じになることがあります。
そして少しずつ毛が薄くなっていきます。
一気にドサッと抜けるのではなく、じわじわと薄くなっていくパターンが多いです。
毛が薄くなる場所
CDAでは、背中の真ん中あたりから始まって、体の横に広がっていくことが多いです。
頭や足の先、しっぽの先は比較的毛が残りやすい傾向があります。
白とブルーの2色の子では、白い部分は全く問題なしで、
ブルーの部分だけが薄くなっていきます。
まるで地図のような模様になることもあります。
毛が薄くなると起きやすいトラブル
毛が薄くなると、皮膚を守る「バリア」が弱くなるので、
いくつかの二次的なトラブルが起きやすくなります。
乾燥とフケはよく見られます。カサカサした細かいフケが目立つようになります。
黒いブツブツ(面皰:めんぽう)が毛穴の部分にできることがあります。
角質やメラニンが詰まったものです。
一番注意が必要なのは皮膚の感染症です。
イタグレはもともと皮膚が薄くてデリケートなので、バリアが弱くなるとバイ菌が入りやすくなります。
赤いブツブツ、膿っぽいできもの、かさぶた、かゆみが出たら、感染症を疑いましょう。
CDA自体はかゆくない病気ですが、
感染症が起きるとかゆくなることがあります。
「うちの子もCDA?」─ 似ている病気との見分け方
イタグレの飼い主さんから「毛が薄いのですが、CDAでしょうか?」というご相談をいただくことがあります。
実は、イタグレにはパターン脱毛症という別の脱毛症もあって、この二つは間違えやすいのです。
パターン脱毛症って?
パターン脱毛症は、毛が徐々に細くなって産毛みたいになっていく病気です。
ダックスフンド、ボストンテリア、チワワ、ウィペット、そしてイタグレでよく見られます。
見分けるポイント
毛色との関係
CDA → ブルーやフォーンの部分だけに起こる。黒や濃い茶色の毛には起こらない
パターン脱毛症 → 毛色に関係なく起こりうる
薄くなる場所
CDA → 背中や体の横が中心
パターン脱毛症 → 耳の後ろ、首の下、胸、太ももの後ろ、お腹など特定の場所
皮膚の様子
CDA → 乾燥、フケ、黒いブツブツが多い。感染症も起きやすい
パターン脱毛症 → 皮膚自体はきれいでツルツル。フケや炎症は少ない
毛の様子
CDA → 毛が折れていてザラザラ、もろい感じ
パターン脱毛症 → 毛が細くなって産毛っぽい。触ると柔らかいことも
よくあるケース
イタグレで多い「耳の後ろ」「首の下」「太ももの裏」の毛が薄い状態は、CDAではなくパターン脱毛症の可能性が高いです。
特に、その部分の皮膚がツルツルしていてフケや赤みがないなら、その傾向が強いでしょう。
一方、背中の毛がまばらになって、フケが多くて、毛が折れているような場合はCDAを疑います。
もちろん両方が同時に起きていることもありえるので、
心配な場合は獣医さんに相談してくださいね。
診断はどうやってするの?
「ブルーの子の毛が抜けたからCDA」と決めつけるのは早いです。
きちんとした診断には、いくつかのステップがあります。
問診と観察
いつ頃から気になり始めたか、どう変化してきたか、かゆがるかどうか、
親きょうだいに同じような子がいるか、
といった情報が役立ちます。白い部分の毛は残っているかどうかも大事なポイントです。
毛を顕微鏡で見る検査
抜いた毛を顕微鏡で観察します。
CDAの毛には、普通の毛と違ってメラニンの大きな塊が見えます。
毛が傷んだり折れたりしている様子もわかります。
皮膚の一部を取って調べる検査
確実な診断をするには、皮膚の小さな一部を取って、
専門家に顕微鏡で詳しく調べてもらいます。
CDA特有の変化が見つかれば診断が確定します。
遺伝子検査について
「薄い色の遺伝子」を持っているかどうかを調べる検査があります。
ただし、この検査でわかるのは「薄い色の遺伝子を持っているか」だけです。
「CDAになるかどうか」はわかりません。
前にお話ししたように、薄い色の遺伝子を持っていても発症しない子はたくさんいます。
遺伝子検査は参考にはなりますが、万能ではないことを覚えておいてください。
治療について ─ できること、できないこと
ここで正直にお伝えしなければならないことがあります。
CDAを完全に治す方法は、今のところありません。
この病気は遺伝子レベルの問題なので、
根本から治して元通りの毛並みを取り戻すことは、現在の医学ではできません。
でも、がっかりしないでください。「完治」は無理でも、
「皮膚を健康に保つ」「快適に暮らす」という目標なら、できることはたくさんあります。
一番大事なのは毎日のスキンケア
最も効果的で実践しやすいのは、適切なスキンケアを続けることです。
シャンプーは管理の基本です。フケや黒いブツブツを防ぐ成分が入った薬用シャンプーがあります。
どの製品がいいかは、皮膚の状態によって違うので、獣医さんに相談して選んでもらうのがベストです。
保湿もとても大切。シャンプーの後は必ず保湿剤を使って、皮膚を乾燥から守りましょう。
サプリメントや薬について
メラトニンというサプリメントが使われることがあります。
毛の成長サイクルに良い影響を与える可能性があると言われています。
ただし正直なところ、「効果があった」という報告もあれば「全然変わらなかった」という報告もあり、はっきりした結論は出ていません。
副作用がほとんどなく安全なので、試してみる価値はあるかもしれません。効果を見るには2〜3ヶ月は続ける必要があります。
オメガ3(魚の油などに含まれる成分) は、毛を直接生やす効果はありませんが、皮膚の調子を整えてツヤを良くする効果が期待できます。
抗生物質は、皮膚に感染症が起きた時だけ使います。
感染がないのにダラダラ使うのは良くないので、獣医さんの指示通りに使いましょう。
日常生活で気をつけること
毛が薄くなった皮膚は、
日焼けしやすくなります。長時間の日光浴は避けて、外出時は洋服を着せてあげてください。
イタグレはもともと寒がりですが、毛が薄くなるとさらに寒さに弱くなります。季節に合わせて暖かい服で守ってあげましょう。
ネット情報についてひとこと
インターネットには「これで毛が生えた!」というサプリや民間療法の情報がたくさんあります。
でも、そのほとんどは科学的な根拠がありません。
高いお金を出して怪しい治療を試すよりも、地道なシャンプーと保湿、良いごはん、ストレスのない生活を提供することが、
愛犬にとって一番の「治療」だと私たちは考えています。
一番伝えたいこと
飼い主さんにどうしても知っておいてほしいことがあります。
CDAは命に関わる病気ではありません。
この病気で内臓が悪くなることはありませんし、
CDAが原因で寿命が縮まることもありません。
これは診断を受けた時に、ぜひ覚えておいてほしい一番の安心材料です。
きちんとケアしていれば、犬自身は毛が薄いことをあまり気にしていないことが多いです。
困るのは「感染症でかゆくなる」ことと「寒い」こと。でもこれは、日々のケアで十分に対処できます。
シャンプーと保湿で皮膚を清潔に保ち、洋服で寒さと日焼けから守ってあげれば、
CDAのイタグレも他の健康な子と変わらない、元気で幸せな生活を送れます。
まとめ
わかっていること
CDAは遺伝が関係する病気で、ブルーやフォーンのイタグレで起こりうる
毛の中のメラニン(色素)の塊が毛を弱くして、折れやすくなるのが原因
パターン脱毛症という似た病気があるので、見分けることが大事
完治させる治療法はないが、スキンケアでうまく付き合える
命に関わる病気ではない
まだわかっていないこと
なぜ同じブルーでも、発症する子としない子がいるのか
犬種によって発症率が大きく違う理由
将来的に完治できる治療法が見つかるかどうか
私たちブリーダーができること
ここからは、ブリーダーとしての私たちの取り組みについてお話しします。
ブルーはイタグレの魅力的なカラーであり、スタンダードでも認められた正式な毛色です。
しかし、このカラーを扱う以上、CDAというリスクと向き合い続ける責任があると考えています。
ブリーダーができる対策
現在の獣医学で推奨されている、最も確実性の高い対策をお伝えします。
① 発症した子はブリーディングに参加しない
これが最も効果的で大切な対策です。
ブルーやフォーンの犬すべてが脱毛するわけではありません。「薄い色の遺伝子を持っていること」に加えて、
「脱毛しやすい体質(まだ特定されていない遺伝的な要因)」が関係していると考えられています。
脱毛した親から生まれた子は、同じように脱毛しやすい体質を受け継ぐ可能性が高いです。
だから、脱毛症状が出た子の組み合わせのブリーディングは行いません。
② 家系をしっかり調べる
親犬だけでなく、その親(祖父母)やきょうだい犬に
「毛が薄くなった子」がいなかったかを調べます。
単に「色が薄い」だけでなく、「毛質がパサパサしている」「背中が薄い」「皮膚トラブルが多い」といった子が家系に多い場合は、そのラインでのブリーディングは避けるようにしています。
また、CDAは3歳〜5歳くらいで発症することもあるので、「高齢になってから薄くなった」というケースも見逃さないようにしています。
③ 交配の組み合わせを考える
リスクを少しでも減らすための交配戦略です。
「ブルー × ブルー」や「フォーン × フォーン」など、薄い色同士の交配は最もリスクが高いと言われています。
両親ともに脱毛しやすい体質を持っていた場合、子犬にそれが濃く伝わる可能性があるからです。
濃い色(ブラックやシール)の犬をラインに入れることで、毛質の改善を図ることもあります。
ただし、これで問題が完全に解決するわけではありません。
④ 譲渡後の追跡調査
私たちの犬舎から巣立った子たちが、
その後どう成長したかをお聞きしております。
3歳〜5歳で発症するケースもあるため、長い目で見て「毛が強い系統」なのか「脱毛しやすい系統」なのかを把握し、今後の繁殖に活かしています。
オーナー様からの情報提供は、僕たちにとって本当にありがたいものです。
正直にお伝えしなければならないこと
ブリーダーとして最も悩ましいのですが、
現在の科学ではできないこと、わからないことがあります。
発症を完全に予測することはできません
遺伝子検査で「薄い色の遺伝子を持っている」ことはわかりますが、
「その子が将来毛が薄くなるかどうか」を判定する検査は存在しません。
同じブルーのきょうだいでも、一方はフサフサ、一方は脱毛、ということが実際に起こります。
これは、まだ特定されていない「修飾遺伝子」というものが関係しているためと考えられています。
ブルーやフォーンを作りながらCDAを100%防ぐことはできません
薄い色の犬である以上、毛の中でメラニン色素が塊になるという現象は必ず起きています。
リスクをゼロにする唯一の方法は「薄い色の犬を繁殖しないこと」ですが、ブルーやフォーンはイタグレのスタンダードカラーであり、その美しさを愛する方も多くいらっしゃいます。
私たちにできるのは、発症した子をブリーディングから引退させ、毛質の良い家系を選び続けることで、発症率や重症度を少しでも下げていく努力です。
飼い主さんへのお願い
私たちブリーダーができる最後にして最大の責任は、
正しい知識をお伝えすることだと考えています。
ブルーやフォーンの子をお迎えいただく際には、「将来的に毛が薄くなる可能性がある」ということを正直にお伝えしています。
これは脅かすためではなく、万が一そうなった時に慌てず対処していただくためです。
また、日常のケアとして以下のことをお願いしています。
皮膚がデリケートなので、強い紫外線は避ける
シャンプー後は保湿をしっかりする
強いブラッシングは避ける(毛が折れやすいため)
そして何より、もし毛並みに変化があったら教えてください。
その情報が、私たちの繁殖の改善につながり、将来の子犬たちを守ることにつながります。
最後に
CDAは見た目の問題が中心であり、
愛情深いケアがあれば犬の幸せを損なうものではありません。
「わからないことはわからない」と正直に認めながら、
「でもできることはしっかりやる」。それが、CDAのイタグレと暮らす上での基本姿勢だと思います。
愛犬の毛並みに変化を感じたら、まずはかかりつけの獣医さんに相談してください。
過度な期待はせず、でも諦めずに、日々のケアを続けていきましょう。
毛が薄くなっても、その子の可愛さや大切さは何も変わりません。
これからも変わらぬ愛情を注いであげてくださいね😁👍
この記事は2025年12月時点の獣医学情報をもとに作成しています。
愛犬の診断や治療については、必ずかかりつけの獣医さんにご相談ください。